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最高裁判所第二小法廷 平成10年(許)8号 決定 1999年4月16日

抗告人

株式会社カサセンシグマ信用

右代表者代表取締役

金澤一夫

右代理人弁護士

鈴木隆

吉田雄策

相手方

北海道エスター株式会社

右代表者代表取締役

星山勇一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人鈴木隆、同吉田雄策の抗告理由について

債権が質権の目的とされた場合において、質権設定者は、質権者の同意があるなどの特段の事情のない限り、当該債権に基づき当該債権の債務者に対して破産の申立てをすることはできないものと解するのが相当である。けだし、質権の目的とされた債権については、原則として、質権設定者はこれを取り立てることができず、質権者が専ら取立権を有すると解されるところ(民法三六七条参照)、当該債権の債務者の破産は、質権者に対し、破産手続による以外当該債権の取立てができなくなるという制約を負わせ(破産法一六条参照)、また、本件のように当該債権の債務者が株式会社である場合には、会社の解散事由となって(商法四〇四条一号参照)、質権者は破産手続による配当によって満足を受けられなかった残額について通常その履行を求めることができなくなるという事態をもたらすなど、質権者の取立権の行使に重大な影響を及ぼすものであるからである。これと同旨をいう原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官亀山継夫 裁判官河合伸一 裁判官福田博 裁判官北川弘治)

抗告代理人鈴木隆、同吉田雄策の抗告理由

一 原決定は、次のとおり抗告裁判所である高等裁判所の判例と相反しかつ法令に関する重要な事項を含む判断をした。

「債権質は、目的たる債権の交換価値に対する担保目的に基づく排他的直接支配を内容とする権利であるから、質権設定者は、質入債権の取立て、免除・放棄、相殺の自働債権とする等の質入債権処分はもとより、期限の猶予、利率の切下げなど質権者に不利益な権利内容の変更をすることができないと解される。もっとも、質権設定者に質入債権の処分又は変更が禁止されるのは、質権者の利益保護を目的とするものであるから、質権者の利益を害するおそれがなく、かつ、質権者の意思に反しないなどの特段の事情があるときには、質入債権の保全のために必要な限度で質権設定者に質入債権の処分又は変更などをする権限が認められるものと解するのが相当である。

破産制度は、破産債権者に対する平等弁済を目的とする法的手段であるが、最終的には配当による破産債権への弁済を予定した精算型の取立手続であるから、質入債権に基づく破産申立ての目的が債権の取立てにあることは明らかであるのみならず、質権の目的たる債権の取立てを破産手続によって行うか、その他の方法で行うかについては、当該債権の処分権限を有する質権者の裁量に属するものというべきであるから、質権設定者による質入債権に基づく破産申立ては、右の特段の事情がない限り、質入債権の処分又は変更に当たり許されないというべきである。」

二 右の点につき最高裁判所の判例はなくかつ福岡高等裁判所平成八年七月一九日決定(平成八年(ラ)第七四号破産申立却下決定に対する抗告事件)は、「抗告人は、前記のとおり本件貸金債権に債権質を設定しているが、だからといって、本件破産申立ての適格がないとは言えない…」と判示している(甲二一)。本件の棄却決定は右福岡高等裁判所の決定に反している。

三 質権を設定した債権に基づき、質権設定者において破産申立てができるかという法律問題は、判例上未解決の重要問題である。

破産申立ては質入債権の処分ないし変更等にはあたらないし、また質権者を害するものでもないから、質権設定者は、質入をした債権に基づき破産申立ができるというべきである。

よって、本件棄却決定は取消しを免れない。

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